子どもの「できる!」を増やそう。発達障害と行動分析学
「修正できない行動の問題は存在しない」と、応用行動分析学者であり学校法人西軽井沢学園理事長を務める奥田健次氏は断言されています。彼は、不適切な行動が見られた際には、それを別の望ましい行動へと導くことで解決できると強調しています。いったいどのようなことなのでしょうか?詳細を見てみましょう。
(※2024年8月24日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
行動分析学とは何か?その学問的特徴と応用について
行動分析学とは一体どのような学問なのでしょうか。これは心理学の一分野に位置づけられますが、一般的な心理学とは異なり、「心の内面」に原因を探るのではなく、行動とその周囲の環境に焦点を当てる点が特徴です。行動やその前後の状況は、誰もが確認できる事実であり、科学的な方法によって客観的に測定が可能です。
この行動分析学を現実社会の課題解決に活用し、行動の変容を通じて問題に取り組むのが応用行動分析学です。とても科学的に感じられます。
行動を増減させる原理とその応用例
行動の原理は非常に単純で、「行動によって良いことが起こる」あるいは「嫌なことが消える」場合、その行動は増加します。逆に、「行動によって嫌なことが生じる」または「良いことがなくなる」と、その行動は減少するのです。行動分析学では、行動の直後に起こる出来事が、その行動を増やしたり減らしたりする要因であると考えます。
例えば、「奇声を発する」という行動が目立つ子どもがいる場合を考えてみましょう。行動の前後を観察すると、奇声を上げる前には、母親が家事など他の作業をしており(良いことがない状態)、奇声を上げた後に母親が抱きしめてなだめている(良いことが生じる)状況が見られます。このことから、奇声を上げた際の母親の対応が、その行動を強化する要因であると推測されます。
叱らないで導くポジティブな行動支援の方法
「では、子どもの奇声を減らすには、どうすればよいのでしょうか?」
奇声を減らし、静かに遊ぶ時間を増やすための一つの方法としては、子どもが奇声を上げた際には関心を示さず(良いことがない状態にする)、静かに遊んでいるときに積極的に関わってあげる(良いことが生じる)ことを繰り返すことが挙げられます。このアプローチでは、叱る必要はありません。
また、さやか星小学校の帰りの会での先生の対応が非常に印象的でした。先生は子どもたちを急かしたり叱ったりせず、できたことをしっかりと褒めていました。その結果、1年生の身支度にかかる時間は、入学当初の15分以上から現在は4分未満にまで短縮されたのです。
多くの日本の学校では、できたことは褒められないのに、失敗したときには叱られる傾向があります。しかし、不適切な行動を叱って減らそうとするのはネガティブな支援方法です。私たちが行っているのはその逆で、良い行動が見られた際にはしっかりと褒め、目標を達成した際にはその努力を認めてあげることです。こうすることで、ポジティブな行動が増え、結果的にネガティブな行動が減少します。
さらに、望ましい行動を積極的に練習することもポジティブな支援の一環です。「廊下を走るな」と叱るのではなく、「正しい歩き方」を教えて練習することが大切です。
発達特性に関係なく使えるポジティブな支援の方法
「発達特性のある子どもとそうでない子ども、どちらにも効果はありますか?」
もちろんです。さやか星小学校では、発達障害を持つ子どもも、定型発達の子どもたちと一緒に学んでいます。特に学習をより細かく支援する専修学級では、教員が子どもを褒めるたびにシールを渡し、それをクラス全体で大きなシートに貼り付ける仕組みを取り入れています。そして、そのシートがいっぱいになると、子どもたちが楽しみにしている特別な活動ができるような工夫がされています。
「ご褒美で子どもを釣るなんて…」と否定的に捉える方もいますが、続けるうちに、子どもたちは自然と自発的に行動するように変わっていきます。
「叱らずに行動を変えることは、家庭でも実践できるのでしょうか?」
はい、家庭でも可能です。叱って行動をやめさせるという考え方ではなく、お子さんができることを増やしていくという意識で接していただきたいと思います。
親の対応が子どもの行動を左右する原因になる?
「ただし、親の対応を間違えると、子どもの不適切な行動を増やしてしまうこともあるのですね。」
「『うちの子は全然泣きやまない』と悩む親御さんもいらっしゃいますが、よく観察してみると、その行動を無意識のうちに強化してしまっているのは、親自身であることがよくあります。」
例えば、電車の中で子どもが大声で泣き出すと、周囲の視線が気になって、親は子どもを泣きやませようとお菓子やゲームを与えてしまうことがあります。そうすると、子どもは「強く泣けばお菓子やゲームがもらえる」と学習し、結果的に泣く行動が強化されてしまいます。
このようなその場しのぎの対応を続けていると、将来的には自分の思い通りにならないと親に対して手をあげたり、キレたりするような行動につながる可能性があります。
「それは避けたいですね。では、大人はどのように子どもと接すればよいのでしょうか。」
私たちが社会で生活する上で「完全な自由」というものは存在しません。社会のルール、学校のルール、そして家庭のルールを大人がしっかりと示すことが大切です。その中で、お互いの主張がぶつかり合ったときに、相手を尊重しながら対話する姿勢や方法を身につけることこそが、本当の教育であると言えるのではないでしょうか。